大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸家庭裁判所 昭和40年(家イ)378号 審判 1968年2月14日

本籍 なし 住所 神戸市

申立人 曹康信(仮名)

国籍 英国 住所 香港

相手方 曹公一(仮名)

主文

申立人曹康信と相手方曹公一との間に親子関係が存在しないことを確認する。

理由

一  本件申立の要旨は

(一)  申立人の母青山てるよは、昭和二五年五月一七日、当時中国人であつた相手方と婚姻し神戸市内で夫婦生活を営むようになつたが、相手方は昭和二九年(一九五四年)英国人となつた。しかし、その後次第に夫婦仲が円満を欠くようになり、昭和三一年五月ごろから相手方は申立人の母と別れ、以後東京都内に居住するようになつたが、昭和三八年九月一四日両者は調停により離婚をした。

(二)  ところで申立人の母は相手方と別居後、昭和三四年六月ころから申立外大原進と情交関係を生じ、相手方と離婚前の昭和三七年三月一七日神戸市内で大原進との間の子である申立人を分娩するにいたつた。

(三)  上記のように申立人は真実は相手方の子ではなく青山てるよと大原進との間に出生したものであるにかかわらず、出生当時相手方との間に法律上婚姻状態が継続していたために、母青山てるよが昭和三七年三月一七日神戸市兵庫区長に申立人の出生届をし同月二九日受理され戸籍の登載をうけたにもかかわらず、昭和三八年三月一六日過誤によるものとして全部消除された。

そこで、申立人は相手方との間の身分関係を明らかにし、青山てるよの子として戸籍に登載をうけたいので、申立人と相手方との間に親子関係が存在しない旨確認の調停審判を求めるというのである。

二  本件調停委員会の調停期日において、相手方は上記事実を争わず、当事者間に主文記載のとおりの合意が成立した。当裁判所は、本件記録添付の戸籍謄本、神戸家庭裁判所調査官広瀬幸雄作成の事件調査報告書ならびに相手方および申立人法定代理人母青山てるよの各審問の結果により必要な事実を調査したところ申立人主張の事実をすべて認めることができる。

三  まず、申立人は日本国内に住所を有するけれども、相手方は英国人であり、かつ日本国内に住所を有しない。しかし相手方は申立人の本件申立に応じて調停期日に出頭し合意をしているので、本件についてはわが国の裁判所が裁判権を有し、かつ当家庭裁判所が管轄権を有すると解される。

四  そこで本件の準拠法について考えると、本件は母の婚姻中に出生した子とその出生当時の母の夫との間で親子関係の存否を争う事件であり、かかる場合は法例第一七条を類推し、子の出生当時の母の夫の本国法によると解するのが相当であり、したがつて申立人の出生当時の母の夫である相手方の本国法である英法によるべきである。

五  ところで英法によれば、合法な婚姻中に懐胎されまたは生れた子は嫡出子と推定されると解されるので、上記事実によれば申立人は相手方の嫡出子と推定されることになる。

しかし英法によれば、この嫡出の推定も夫の妻に対する不接近(nonaccess of the husband to the wife)の証明によつてこれを覆えすことができ、その嫡出性を争いうる者、争いうる期間もとくに制限はなく、また個々の具体的事件につき先決問題として当然争うことができ、特別の手続を要しないと解される。このような場合には法廷地法であるわが国の手続法との関係では親子関係不存在確認の手続において嫡出の推定を覆えし、親子関係の存在を否定することも許されると解すべきである。

六  神戸家庭裁判所調査官広瀬幸雄の事件調査報告書中の谷本喜美子、大原進の陳述の記載によれば申立人の母は相手方と全く交渉をもたない不在中に申立人を壊胎出生したことが明らかであるので、申立人の嫡出の推定は完全に覆えされ、申立人と相手方との間に親子関係が存在しないというべきである。

七  そうすると本件申立は理由があるので家事審判法第二三条に則り主文のとおり審判する。

(家事審判官 越山安久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例